高田 明 教授 ボツワナ派遣報告(2025/08/07-2025/09/06)

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ボツワナ派遣報告: 現地ワークショップ&フィールド・エクスカーションのためのアレンジメント

京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田 明

 令和7年8月7日から9月6日にかけて,おもにボツワナの首都ハボローネ,ニューカデ村などを訪問し,アフリカ狩猟採集民・農牧民のコンタクトゾーンにおける子育ての生態学的未来構築にかかわるフィールドワークを行った.

 ハボローネでは,まず本プロジェクトの海外研究協力者であるボツワナ大学人文学部のBudzani Gabanamotse-Mogara准教授の研究室を訪問した.Gabanamotse-Mogara准教授はアフリカ言語・文学研究科においてバントゥ諸語やコイサン諸語の言語学的な研究を推進しており,本プロジェクトにおけるボツワナのコンタクトゾーンにおける言語社会化や教育政策についての議論ではとくに重要な共同研究者である.本プロジェクトのメンバーである中川教授や報告者とは,プロジェクト開始前からの旧知の仲である.今回は,報告者とGabanamotse-Mogara准教授,およびAndy Chebanneボツワナ大学名誉教授(写真1)らが企画している現地ワークショップおよびフィールド・エクスカーションについて議論を行った.このワークショップ&フィールド・エクスカーションはボツワナのコイサン諸語話者をめぐる初期言語教育や在来知識の再活性化をメインテーマとしてに10月の末にハンシー県で実施する予定であり,今回の会合ではそのメンバーやプログラム,開催地での設備のアレンジやロジスティックなどについてGabanamotse-Mogara博士,Andy Chebanne 博士,報告者が詳細な意見交換を行った.また,Gabanamotse-Mogara博士,Andy Chebanne 博士からは,昨年度のボツワナにおける歴史的な政権交代後の社会状況や教育政策の変化について,またボツワナで博士研究を予定している京都大学大学院生の研究テーマなどについて意見交換を行った.たいへん有意義かつ楽しい時間であった.

写真1  Andy Chebanneボツワナ大学名誉教授

 またハボローネでは,ASAFASの博士課程院生で報告者の指導院生である大学院生の野口朋恵さんと合流し,在ボツワナ日本大使館,JICAボツワナ支所,イミグレーション庁,児童福祉・基礎教育省(写真2:野口さんが主となって調査を進めているノンーフォーマル教育を主管する官庁である)などを訪問した.紙幅の制約から意見交換の詳細は省略するが,いずれの組織でも今後,本プロジェクトのアクション・リサーチを進めていく上で貴重な情報を得ることが出来た.

写真2  児童福祉・基礎教育省の入っているTirelo Houseの外観

 さらにハボローネでは,ボツワナ国際科学技術大学(BIUST)のTebogô Thandie Leëpile-Donald博士と研究打ち合わせを行った.彼女はBIUSTの食システム・公衆衛生栄養研究者として勤務しており,彼女が学位を取得したカナダのブリティッシュコロンビア大学では,報告者も指導教員群の一員としてその指導にあたった.彼女が進めているボツワナの地方部における住人の栄養や健康に関する研究は,本プロジェクトでも重要な貢献をすることが期待される.今回の会合では,彼女が推進しているボツワナの文化・文脈に沿った健康教育,アルコールやドラッグの使用規制に関する実践的研究について有意義な意見交換を行うことができた.

 その後,報告者らが長期継続調査を続けており,本プロジェクトのメイン・サイトの1つでもあるニューカデ村へと,陸路で長距離移動した.ニューカデにはこの地域一帯の先住民・狩猟採集民として知られるグイやガナを中心とする人々が暮らしており,現在の人口は1500人を超える.ニューカデに着くと,旧知の住人が温かく野口さんと報告者を出迎えてくれた.報告者のニューカデとの関わりはすでに30年近くになり,世代を越えた友人関係が広がっている.夜明けのニューカデ内を散歩しながら,長期フィールドワークのありがたさを感じた(写真3).次世代の住人に向けた在来知識の活性化や教育活動の推進をねらった本プロジェクトが,この友人関係を深めることを願っている.

写真3  夜明けのニューカデ

ニューカデではさらに,グイやガナにおける精神疾患および障害に関連する調査を行った.これに関する概念としては,以下のようなものがある.
 dzúā-dzùà: 動詞.狂暴になる(同義語: ɡǁà̰ō, dzùbā, ǂùī)
 pìrī-pìrì: 動詞.愚かである
 ŋǃóbó: 名詞.失声者(障害による)
 このうちdzúā-dzùàは,近年とくに問題になっている症状で,dzúā-dzùàになった人々は,多くの人が自分について話している,侮辱している,あるいは殺そうとしていると信じ込んで苦しむ.その結果,人々を恐れ,奇妙なことを口にしたり,逃げ出したりするという.住人の多くは,dzúā-dzùàは定住化に伴うストレスや飲酒,薬物摂取との関連があると考えている.適応障害や統合失調症といった西欧医療における精神疾患の概念との関連も注目される.今後,医療機関や伝統医と協働しながらさらに調査を進めていきたい.

 ニューカデを後にしてから,地方空港のあるマウンに移動した.マウンは世界的な観光地であり,世界遺産にも登録されているオカバンゴ湿地帯の入り口となる街である(写真4).またマウンには,ボツワナ大学の一翼をなし,環境科学や地理情報システムに関する研究の世界的な拠点でもあるオカバンゴ研究所(ORI)がある.生態学的アプローチから子どもの社会化や子育てについての経験論的な研究を推進する本プロジェクトにとっても,ORIは重要な位置づけにある.報告者はORIを訪問して,Mpaphi Casper Bonyongo所長やOliver Moses副所長を表敬訪問し,本プロジェクトの概要について説明するとともに今後の研究協力について貴重な意見交換を行うことができた.

 以上,今回も積極的にフィールドワークとアクション・リサーチを行い,充実した滞在となった.これを可能にしてくれた関係諸機関や人々に感謝したい.

写真4  マウンの空港

参考文献
Nakagawa, H., Sugawara, K., & Takada, J. A Gǀui Dictionary. (Unpublished manuscript)