高田 明 教授 米国派遣報告(2025/03/26-2025/04/07) 

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米国派遣報告: アメリカ応用人類学会・異文化間研究学会,心理人類学会での発表とUCSDとの共同

京都大学大学院
アジア・アフリカ地域研究研究科・教授
高田 明

令和7年3月26日から4月7日にかけて,米国のポートランド,サンディエゴ,アルバカーキを訪問した.短期間であったが,以下に記すようにたいへん有意義な訪問となった.

最初に訪れたのは,ポートランドである.オレゴン州最大の都市であるが町並みは落ち着いており,桜並木の美しい景観やアザラシの可愛らしい銅像が印象的だった(写真1,2).

写真1 ポートランドの桜並木
写真2 アザラシの銅像

ポートランドでは,アメリカ応用人類学会(Society for Applied Anthropology)と異文化間研究学会(Society for Cross-Cultural Research)の合同大会に参加し,Secret Lives of Anthropologists: Challenges, Experiences, and Lessons from the Fieldというパネルにおいて,The Quiet Joy of Fieldworkers in the Kalahariというタイトルで発表を行った.このパネルは,普段論文等の成果物に十分盛り込むことは難しいが,いい研究を行っていく上で大切なフィールドワークの裏舞台について話し合うという企画であり,同僚たちの苦労や楽しみをのぞき見る貴重な機会となった.ここでは共同研究者であり,長年の友人でもあるBonnie Hewlett氏(ワシントン州立大学),Barry Hewlett氏(ワシントン州立大学),Robert Moïse氏(独立研究者),Adam Boyette氏(マックスプランク進化人類学研究所)らと旧交を温めると共に,新たにChristopher J. Kovats-Bernat氏(ニューヨーク市立大学)やSylvie Le Bomin(ソルボンヌ大学)らと知己を得ることができた.

続いて訪れたサンディエゴでは,カルフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)を訪問して(写真3),共同研究を進めている認知科学学科のFederico Rossano准教授らと研究打合せを行った.

写真3 UCSDの認知科学部(Department of Cognitive Science)

具体的には,Rossano准教授やその大学院生,同僚たちと本プロジェクトに関わる研究情報の交換を行うと共にRequest in human-chimpanzee interactions というタイトルで研究発表を行った.Rossano准教授と報告者は長年の友人でもあるとともに,コミュニケーション研究,とくに人間の乳幼児や霊長類の相互行為についての共同研究を推進している.今回の訪問でも,最近の研究上の関心の共有を進めると共にUCSDと京都大学の間での研究者の相互交流をさらに推進していく方策について大変有意義な議論を行うことができた.またサンディエゴは海洋研究のメッカであり,美しい海や起伏に富んだ海岸線でも知られている.滞在先のホテルから歩いて数分でも,たくさんのアザラシが勇ましいうなり声を上げている様子を見ることができた(写真4).ポートランドで見た銅像(写真2)を思い起こしながら,北米の自然のすばらしさとその変遷について思いをはせた.

写真4 サンディエゴの海岸に集うアザラシの群れ

その後,ニューメキシコ州のアルバカーキに移動した.ニューメキシコ州付近はもともとプエブロなどネイティブ・アメリカンのさまざまな集団が暮らしていたこと,またそこへの欧州からの植民をめぐってさまざまな交渉や戦いが繰り広げられたことで知られている.アフリカの先住民・狩猟採集民とその周辺組織・民族のコンタクトゾーンに注目する本プロジェクトにとっても,たいへん興味深い地域である.こうした関心から,アルバカーキ中心部にあるプエブロ博物館を訪問した.現在この地域では,プエブロの諸集団の系譜にある自治組織が認められており,十九の知事が任命されていることが注目される(写真5).また,プエブロの伝統知に基づく物語りも試みられており(写真6),本プロジェクトでアクション・リサーチを進めていく上でも大いに参考になった.

写真5 プエブロ博物館に展示されていたプエブロの19の集団の知事のパネル
写真6 プエブロ博物館に展示されていたプエブロの伝統知に基づく展示

アルバカーキではさらに,心理人類学会(Society for Psychological Anthropology)に参加し,Children’s Interactions with Peers and Others in Learning Environmentsというパネルにおいて(Re)generating environmental perception and social relationships: Analysis of child peer interactions among the G|ui/Gǁana in Botswanaというタイトルで発表を行った.このパネルは,世界のさまざまなフィールドにおいて,子どもが学習を進めていく上で同輩集団やそれ以外の子どもの周囲の人々が果たす役割について再考するという企画であり,報告者の長年の関心に大きく響くものであった.このパネルでは,子どもの人類学や心理人類学を長期にわたって牽引してきたと共に報告者の長年の友人でもあるDavid Lancy氏(ユタ州立大学),Tom Weisner氏(UCLA),Jan Hauck氏(ルードヴィヒ・マクシミラン大学),Suzanne Gaskins氏(ノーザン・イリノイ大学),報告者の元指導院生であるXiaojie Tian氏(筑波大学)らと旧交を温めた.それと共に,子どもの人類学に関する研究を活発に進めているCamilla Morelli氏(ブリストル大学)らとも知己を得ることができた.会場となったTamaya Resort, Santa Ana Pueblo New Mexicoは,荒野の真ん中にプエブロの伝統的建築物をかたどって建築された美しいリゾートホテルであり,周囲の自然環境を活かしたネイチャー・トレイルなどを楽しめる(写真7).閑静な環境は,学問的議論を集中的に行うにも最適だと感じた.心理人類学会の会場では,David Lancy氏,Xiaojie Tian氏,報告者の英文単著も展示させていただいた(写真8).多くの刺激的な議論を行い,後ろ髪を引かれながら,広大な荒野に囲まれたアルバカーキを後にした.

写真7 ネイチャー・トレイルからTamaya Resortを眺めるCamilla Morelli氏(左)とXiaojie Tian氏(右).
写真8 心理人類学会の会場で展示された報告者らの書籍